AI時代の検索マーケティング - SEOとWeb広告の限界と、検索統合戦略とは
「AI OverviewsやChatGPTで検索行動が完結し、SEO経由のサイト流入が減少」
「Web広告のクリック単価が高騰し続け、成果が頭打ち」
AIの登場で、SEOやWeb広告を取り巻く環境は複雑化しています。ユーザーの商品・サービスに関するオンラインでの情報収集や比較検討の場は、Google検索からSNS、そしてAI検索へと一気に分散しました。
もはや、個別チャネルの「点」の対策をするだけでは不十分です。企業は、SEOや検索広告、AI検索といったあらゆる検索面を対策する「統合型検索マーケティング」を行う必要が出てきています。
この変革期に、検索広告やSEOはどう統合されていくべきか。
今回はデジタルマーケティングの最前線を牽引している株式会社オプトの黒沢槙平氏(広告領域 上級執行役員)と堀内雄介氏(ウェブコンサルティング部 部長)をお招きし、SEOやAI検索を得意とする株式会社LANY代表の竹内と共に、その本質と未来への活路について、リアルな声から探ります。
【黒沢 槙平/株式会社オプト 広告領域 上級執行役員】
2010年㈱オプトに入社。人材・教育業界を中心とした広告運用オペレーションからコンサルタントまで従事。2016年に広告運用コンサルティング部の部長を経て、2019年デジタルマーケターの人材開発の専門部署を立ち上げ、責任者に就任。その後、人事部部長の兼任を経て、2021年1月より、コーポレート領域管掌の執行役員に就任(2021年より人事領域管掌、2022年より経営企画領域を兼任)。2024年4月より広告運用管掌の執行役員:VPに就任後、2025年より、広告領域 上級執行役員:SVPに就任。
【堀内 雄介/株式会社オプト ウェブコンサルティング部 部長】
デジタル広告を扱う企業に新卒で入社。SEMのコンサルティングに従事し、前職も含め約300クライアント・500サイト以上のSEO/CROに携わる。2015年にクロスフィニティに中途入社。現在ではWebサイトの価値最大化をミッションとする組織全体の案件サポート及びマネジメントを行う。さまざまな案件の実績・知見をもとに、SEO勉強会の講師も多く務めている。
検索広告の現場における課題
AIがもたらす「検索先の分散」と現状

竹内:AIの登場によって、お客様が購入に至る前の検討行動が劇的に変わりつつあると考えています。これまではWebで検索をして、SEOやリスティング広告の面に出てくるWebページをクリックするのがほぼ全てでした。しかし今では、ChatGPTやGemini等の対話型AIに自然言語で質問を投げかける人や、Googleの検索結果面にあるAI OverviewsやAI Modeで回答を確認してWebサイトへは訪問しない人など、検索のあり方が大きく変わってきているように感じます。
最前線でデジタルマーケティング支援を行っているオプトさんでは、生活者の検索行動の変化やお客様とのプロジェクトの取り組み方など、AIの登場による影響は感じていますか
▲株式会社オプト 黒沢氏と堀内氏
堀内:検索広告のところでいくと、AI検索と住み分けられてるな、という感覚が意外とあります。
検索広告が出ているのは「買いたい」といったトランザクショナルな検索クエリが多い。一方、AI Overviewsが出るのは主に「情報を知りたい」というインフォメーショナルな検索クエリですよね。
そのため、検索広告とAI Overviewsの掲載枠の重複率も現時点ではかなり限定的で、「このままだと検索広告のクリックがなくなってやばい」という空気はまだ感じないですね。
どちらかというと、オプト社内ではSEOの動向を見ている僕の部署(ウェブコンサルティング部)のメンバーが一番危機感を募らせていると思います。
黒沢:とはいえ、市況感的には、検索広告自体はすでに頭打ちになってきているように感じます。要因は二つあると思っていて、まず一つが、指名検索数自体が伸び悩んでいること。
竹内さんもおっしゃる通り、生活者の検索先がWeb以外にもInstagram、X、そしてChatGPTなどに分散しているからです。私はこれを「フラグメンテーション」と呼んでいますが、Googleでの指名検索が他プラットフォームにも分散していっています。
検索広告が直面する「二重苦」とGoogle依存
黒沢:もう一つの大きな問題は、CPC(クリック単価)が高騰し続けていることです。これには、主に2つの理由があります。一つは、検索広告を出す企業が増えていることです。もう一つは、広告配信の自動化が進んだ結果、「購入」や「申込み」など、成果につながりやすい人気の検索キーワードに、多くの企業からの入札が集中して、オークションプレッシャーが高くなっているためです。つまり、広告枠をめぐる「席取り合戦」が非常に激しくなっているため、クリック単価が吊り上がっています。
こうした「二重苦」によって、最近の検索広告で効果を維持し続ける難易度は非常に高くなっているのが事実です。
竹内:検索広告の効果の維持が難しい中、検索広告を主軸に戦っているようなお客様とはどのように向き合っていますか?
黒沢:マーケティング戦略全体のポートフォリオを見直しましょう、といった提案はしますが、検索広告の予算を大幅に変更するケースは少ないです。
なぜなら、効果は悪くなっていても、検索広告と同水準の効率で成果を出せる媒体がまだ存在していないからです。ディスプレイ広告をやっても、CPA(獲得単価)のみで比較すると、効率は劣るケースも多いです。
結果として、大手の広告主様ほど、効率の悪化と反して検索広告偏重から抜け出せず、依存している状況になっています。
SEOと広告運用の「統合」を阻む壁
組織構造による壁

竹内:マーケティング戦略全体のポートフォリオを見直すという文脈において、SEOと検索広告の統合はこれまでずっと重要だと議論されてきたように思います。ただ、結局ほとんどの企業がその統合を実現できていないように感じます。なぜ、この統合は実現しないと思いますか?
堀内: 最近ちょうど検索広告とSEOの成果を横串で確認できるダッシュボードを提供していて気づいたことがあります。
▲対策キーワード起点で検索広告/SEOの成果指標を確認できる
戦略的なマーケティング投資を行う準大手や中堅の企業様は検索ダッシュボードの導入を積極的に進めていただけることが多いのですが、月額広告予算が数千万以上になってくる大手企業になると、導入数が減る傾向があります。
大規模な組織ほど検索広告担当とSEO担当が分かれており、統合的に見るニーズが少ないのではないかと感じます。
竹内:組織の縦割り構造が一番の原因なんですかね。
SEOと検索広告の思想の違い
黒沢:僕は元々広告運用担当者としてキャリアをスタートしていて、直近のAI検索周りのトレンドもありSEOも深掘りするようになってきて感じたのですが、SEOとWeb広告の性質の違いが組織を構造的に分けるという判断に繋がっていると思います。
マーケティングの考え方でいうとWeb広告はプッシュ型、SEOはプル型じゃないですか。
Web広告は毎日調整しながら短期のPDCAを高速で回し、即時的な効果を追求する一方、SEOは長期的な視点でWebサイトの改善やコンテンツ制作を行い、中長期的にお客様との関係構築を行うための資産形成をする。
つまり、成果が出るまでの時間軸や思想も異なる。だから組織構造が分かれたり、それぞれのチャネルへの向き不向きもあるように感じます。
堀内:SEOは一時的なプロモーションではなく、いわばサイト制作と考え方が近くて、事業の基盤を支えるインフラとして捉えるべきだと思っています。
竹内:おっしゃる通りですね!
堀内:SEOで本当に大切なのは、お客様との関係構築を行い続けるの土台を作ることです。そのためには、お金や人を継続的に投資し続ける必要があります。 しかし、その投資先は「小手先のテクニックで順位を上げること」であってはいけません。
最も投資すべきなのは、「お客様にとって本当に価値のある情報を、会社として発信し続けるための体制や仕組み」を作ることではないかと考えています。
具体的には、お客様が「何に困っているか?」、購入や利用を決めるまでに「どんな情報を知りたいか?」といった、お客様の悩みや検討の段階に寄り添った情報を、コツコツと作り、発信し続けることです。
こうした地道な活動を積み重ねることで、検索結果という「自然な出会いの場」でお客様に見つけていただいたときに、「この会社は信頼できる」と思ってもらえるようになります。
Web広告が「顕在化したニーズに対して瞬間的にリーチする手段」だとすれば、SEOは「関心を持ち始めた層が自ら情報を探すタイミングで選ばれる状態をつくる」ためのもの。
つまり、顧客の比較・検討のフェーズで「指名される確率」を高めるのがSEOの強みだと思います。
それを、Web広告と同じように短期的なCPA(顧客獲得単価)などの指標で語ろうとしてしまうと違和感が生じるし、分断が組織的な課題としてずっと残ってしまうのが実態なのではないかと思いますね。
集客が「分散」した時代に求められる統合型検索マーケティング戦略とは
集客における「短期の獲得効率」と「中長期の資産形成」をどう捉えるべきか
▲AI時代における「検索の分散」
竹内:対談の冒頭でも少し触れた通り、僕は「検索」という行為がGoogleだけでなく、SNS、AIチャットなど多岐にわたって行われるようになった今、ユーザーが「何かを知りたい・理解したい」と思い「検索」をする際の、どの検索接点からでも適切に応えられる状態をつくることが非常に重要だと考えています。
短期的な獲得効率が良い検索広告だけでなく、SEOやSNS、AI検索を成長させた方が、実はROIが良いケースも本当はあるはずです。
黒沢:SEOに投資をしてチャネルとして成長をさせた方が中長期的な視点で捉えるとリターンが大きくなるケースはかなり多くあると思います。とはいえ検索広告の方が短期間でリターンが得られやすいという点で選択されやすいのも事実です。
中長期的かつ効果が測りづらいSEOなどの施策が後回しにされがちな問題をどう変えていくかはカギですよね。
堀内:それで言うと、短期の広告的なマネーゲームから離脱し、中長期戦略に舵を切って成功した事例も出始めていますよね。
例えば、ある企業はSEOをやり切った後、競合がSEOに注力している間に、UXに投資をシフトして差別化を図った。
これによって、単なる流入増加ではなく、ユーザーがサイト内で比較検討しやすいという検索体験そのものを最適化し、ブランドとして「選ばれる確率」を高める構造をつくった。
つまり、「検索で見つかる状態」にとどまらず、「長く使われ続ける状態」に戦略の軸足を移したことが、他社にはない優位性につながっている。
これは、短期の費用対効果で評価されがちなマーケティングの領域で、長期的な顧客接点の質に先行投資する重要性を示す良い事例だと思っています。
統合型検索マーケティングは「バランサー」によって推進される
竹内:あとはROIの考え方によると思うんですが、各種検索マーケティングの施策同士での相互作用もあると思っています。わかりやすいところで言えば、SEOでの獲得状況を加味した上で検索広告の予算配分を検討したり、逆に、検索広告で高いCVRが出ているクエリでの上位表示をSEOで目指したり。
こうした相互作用があるからこそ、検索というユーザーの一つの行動に対して、全体バランスを取りながら、施策の優先順位を考えていけるような「バランサー」が必要だと思っています。
各検索チャネルを横並びで見て「これをやったら他のこのチャネルにも効くから」という判断ができたり、全体統括をしながら「検索マーケティング」の推進ができる役割の人が組織には必要だと思うんですよね。
最近話題のLLMO(=大規模言語モデル最適化。自社の情報をAIに推奨させるための施策)を起点とした戦略も同様で、LLMOのために取り組むべき独自の施策はほとんどなく、基本はSEO、PR、アフィリエイトなど、これまで取りくんでいたような様々な施策がLLMOの成果に返ってくるという構図です。つまり、全てのチャネルを見た上で、何を、どの優先度で取り組むべきかを考えなければいけない。
だから、今は少ないかもしれないですが、検索マーケティングに関わる様々な施策を見渡し、検索マーケティングのバランスを取れるような人材が舵取りをするようになってくると、非常に面白いと考えています。
黒沢:AIによる引用率が上がるという結果指標をもとにするなら、その先行指標にタッチする必要があり、各施策を統括する検索PMOのような形で各レバーをコントロールして引きに行くイメージですね。
堀内:おそらく、それを一人でやるのは結構厳しいですよね。タスクフォースやプロジェクトとして、ある程度長期スパンで動かすのが良さそうです。
最初のうちは失敗しながらも前に進むということをやらないと、「LLMO? 何それ? まずは検索広告やSEOだろ」という、費用対効果の分かりやすさに流されてしまう。
なので、統合型検索マーケティングの成功事例をいかに作っていけるかがカギになりますね。竹内さんがおっしゃるようなバランサーのような人材は需要に対して供給量が圧倒的に少ない以上、広告代理店やSEO会社がそのケイパビリティを獲得していく意義が大きい気がします。
「検索クエリ」から引き出すインサイト起点のチャネル統合こそ本質
黒沢:あとは、その話の延長で言うと、例えば「検索クエリ」はそれぞれの検索チャネルを運用する上で、検索者の心情やインサイトを最も知ることのできる情報だと考えているんですが、現場で統合的に活用できているケースはあまり多くないように感じます。
SEOも検索広告もSNS検索も、対象としているお客様は一人の同じ人間です。検索するプラットフォームが違えど、それぞれの検索を統合的に見ることで、より検索者の解像度や検索ジャーニーの解像度は高まるのではないでしょうか。
堀内:僕もそう思います。ユーザーセントリックに考えるという基本思想に基づくと、一般的な検索者は検索広告の広告枠とSEOの掲載枠を区別して見ていません。それを区別して見ているのは、私たちのような専門家だけかもしれません。
竹内:「データを統合した上でインサイトを深掘りすることが大事だ」ということですよね。確かに、SEO、検索広告、AI検索といった検索体験を、ユーザーの行動プロセス全体で捉えて包括的に設計できると素晴らしいですよね。ここを掘り下げていくのはデータの観点でも難しいことかもしれませんが。
黒沢:だからこそ、こういうビジネスチャンスがあるのだと思っています。このマーケットにいかにアプローチするかが重要です。
統合型検索マーケティング戦略実現に向けた支援会社としての転換点
統合型検索マーケティングはまさに黎明期

竹内:いざ統合型検索マーケティングを推進しようとしても、決裁者への説明も難しく、なかなか踏み込みづらい領域だと思います。どのように推進していくのが良いと思いますか?
堀内:今の広告代理店は、マーケティングの4Pの中の「プロモーション」を担当していますが、その上流によじ登っていくような考え方もあってもいいのではないかと思っています。
つまり、サービス全体のプライシングやプロダクトといった領域まで支援で入り込むのが、統合型プロジェクトでやるべきことになるんじゃないかな、と。
たとえば、私たちが広告運用の現場で取り扱っているキーワードデータやAIの分析データは、商品開発の現場でも有用なはずです。それを顧客に適切にフィードバックすること自体でも価値が出せますし、コンサルテーションのニーズも一定ある。
これからは、それを提供できるようにならないと、AIが広告を運用できてしまう世界が来た時に、「いくら予算を預かって、運用して、マージンで何パーセント」という従来の運用代行ビジネスは、かなり厳しくなってくるんじゃないかと思っています。
竹内:最近は広告運用のインハウス化も進んでいるように思いますが、「自社である程度は運用ができるようになった」「代理店に任せるだけでは成果を実感しづらい」といった構造的な変化があるのかなと。
だからこそ、代理店側も単なる運用代行ではなく、マーケティング全体を横断しながら統合的に支援できる価値をどう出すかが問われている気がします。
黒沢:おっしゃる通りです。従来のように運用代行による手数料モデルにはビジネスモデルとしての限界が見えてきていますし、今後は運用だけでなく、戦略・データ・クリエイティブを横断して成果を設計できるかどうかが代理店の新しい競争軸になっていると思います。
単なる広告運用というより、企業の成長戦略を一緒に描けるパートナーとしての付加価値が重要になってきていますね。
統合型検索マーケティングの場合、検索チャネル全体をコンサルティングし、お客様のインハウス化を支援するという形のプロジェクトなども、フィットしそうな気がします。
堀内:支援会社と事業会社が一体となったプロジェクトでないと、統合的な施策を推進するのは結構難しいですよね。
「分散」の次は必ず「統合」が来る

黒沢:私は、マーケットは、「分散と統合」を繰り返す法則を持っていると考えています。たとえば、最初バラバラだった広告枠が多すぎるから、それを束ねるアドネットワークが生まれた。そしてそのアドネットワークが乱立すると、さらにそれを束ねるDSPが生まれた。
新しい技術が出ると分散しますが、広がると人はまとめたくなる。今、検索がまさに分散している時です。Google一強だったところに、SNSやAIが出てきた。だからこそ、統合したくなる。
つまり、今のタイミングにおける統合型検索のマーケティングは、戦略としてかなりちょうどいい時期に来ていると言えます。
竹内:大局的に見ると、本当にそうですね。
堀内:これまでは言ってしまえばGoogle検索だけに向き合えばある程度は良かったというむしろ特殊な環境でしたが、それが正常な状態に戻りつつある。そうなると、分散する検索者の行動を統合的に見なくてはいけなくなってくるでしょう。
黒沢:その上で大切なのは、目に見える指標だけの点の最適化を行おうとすると、苦しくなってしまうということです。全員が見えている箇所はレッドオーシャンになります。だからこそ、「見えないところ」に投資できる論理と戦略を持てる人こそが勝つ世界になるのではないでしょうか。
堀内:本当にそう思います。このGoogleが来てAIが来るという、2大プラットフォーマーの変革を1世代で経験するのは、人類で僕らが初めてです。今までやってきたことは、もう役に立たないかもしれない。私たちは、誰も経験したことのない領域に向かおうとしている世代なのです。
竹内:だからこそ、僕らは「アンラーン」することが大事ですよね。過去の成功ややり方にしがみつくと、時代の変化についていけない。強くてニューゲームとして、フラットに検索について捉え直していきたいです。
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