定量分析

GoogleのAI モードにおけるブランド言及の要因分析

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目次

Google検索に実装された「AIモード」は、従来の検索結果とは根本的に異なるアプローチで情報を提示します。AIが複数のサイトから情報を収集・分析し、統合された回答を生成するこの機能は、企業のマーケティング戦略に新たな課題をもたらしています。

Meet AI Mode

AIモードでは「クエリファンアウト」という技術を使い、関連する複数の検索を同時に発行し、サブトピックや複数のデータソースを横断して結果を取得します。つまり、AIは回答を生成する際に、複数のウェブサイトから情報を収集し、それらを統合して最終的な回答を作成しているのです。クエリファンアウト

この仕組みにより、従来のSEOで重視されてきた「自社サイトの検索順位」よりも、「AIが情報収集する複数サイト全体でのブランドプレゼンス」が重要になる可能性があります。

私たちは、この変化に対応するためのヒントを探るべく、「AIモードで言及されるブランドの要因」について定量的な調査を実施しました。本レポートではその分析結果と、そこから導かれる戦略的示唆を解説します。

調査概要:AIモードにおけるブランド言及の要因分析

本調査は、AIモードがどのような要因でブランドを選定し、表示順位を決定しているのかを解明することを目的としています。

AIモードは回答生成時に複数のウェブサイトから情報を収集することから、私たちは「AIモードで言及されるブランドは、AIが情報収集したサイト群の中で、より広く、より多く言及されているのではないか」という仮説を立て、以下のフローで検証を行いました。AIモードにおけるブランド言及の要因分析

調査概要

  • 調査対象クエリ:「What is the best team communication tool?」
  • 実施回数:5回
  • 分析対象:チームコミュニケーションツール11ブランド
  • 総レコード数:55件

調査フロー

1. AIモードが参照した記事URLの特定

  • 「What is the best team communication tool?」でAIモードが情報収集に使った記事のURLを各回ごとに記録。

2. ブランド言及の確認と指標算出

  • あらかじめ分析対象として設定している 11ブランド を基準に、各記事での言及状況を確認。
  • 各ブランドについて以下を算出:
  1. 言及サイト比率:どれだけ多くのサイトで名前が出ているか(広がり)
  2. サイトあたり平均言及数:各サイト内で他ブランドと比べてどれだけ言及されているか(深さ)
  3. 言及時平均順位:サイト内でどの順番で紹介されているか(順位)

3. AIモードの回答との比較

  • AIモードの回答で実際に言及されたブランドとその表示順位を記録。
  • 上記3つの指標との関係を、以下2つの観点で分析する:
  1. 言及有無:AIモードでブランドが取り上げられるか否か
  2. 表示順位:ブランドがAIモードに取り上げられた場合にどの順序で表示されるか

分析結果①:言及有無の決定要因

分析の結果、AIモードで言及されたブランド群とされなかったブランド群の間には、いくつかの指標で有意な差や傾向が見られました。各指標について、言及されたブランドと言及されなかったブランドの差を検証した結果は以下の通りです。言及されたブランドと言及されなかったブランドの差の検証結果

箱ひげ図の見方: 箱の中央線は中央値、箱の上下は第1四分位数と第3四分位数、ひげは最大値・最小値を示します。箱の位置が離れているほど、2つのグループに大きな差があることを意味します。

分析結果

言及サイト比率(広がり):決定的な差

言及ブランド群(青)と非言及ブランド群(赤)の箱が完全に分離しており、重複がほとんどありません。

中央値の比較

  • 非言及ブランド:12.5%のサイトで言及
  • 言及ブランド:55.2%のサイトで言及
  • 差:4倍以上(p<0.001)

AIモードに選ばれるブランドは、選ばれないブランドの4倍以上の参照サイトで名前が出ています。「広がり」がAIモード選択に決定的な影響を与えていることが明らかです。

サイトあたり平均言及数(深さ):明確な差

こちらも箱が明確に分離しており、言及ブランド群の方が一貫して高い値を示しています。

中央値の比較

  • 非言及ブランド:全ブランド言及数の5.8%
  • 言及ブランド:全ブランド言及数の18.9%
  • 差:3倍以上(p<0.001)

単に「名前が出る」だけでなく、「他ブランドと比べて多く言及される」ことも重要だと分かります。言及ブランドは、同じ記事内で他ブランドの約3倍の頻度で言及されています。

記事内順位:差がない

上記2つの指標とは対照的に、両群の箱が大きく重複しており、明確な差がありません。

中央値の比較

  • 非言及ブランド:記事内順位0.607
  • 言及ブランド:記事内順位0.373
  • 統計的に意味のある差なし(p=0.081)

記事内での順位は、AIモードでの言及可能性と関連がないことが確認されました。むしろ非言及ブランドの方が順位が高い傾向にありますが、この差は偶然の範囲内です。

つまり、どういうことか

AIモードに選ばれるためには:

  1. 「広がり」が最重要多くのサイトで名前が出ることが何より大切
  2. 「深さ」も重要各記事内で何度も言及されることも効果的
  3. 「順位」は無関係記事内で1位に書かれていても、選ばれるとは限らない

言い換えると、「少数のサイトで高評価を得る」戦略よりも、「数多くのサイトで広く言及される」戦略の方が、AIモード時代には遥かに効果的だということです。

分析結果②:表示順位の決定要因

AIモードに言及されたブランドを対象に、AIモード内での表示順位と各指標の関係を分析しました。AIモード内での表示順位と各指標の関係

散布図は縦軸がAIモードでの順位、横軸が各指標の値を示しており、以下の関係性が読み取れます。

分析結果

言及サイト比率との関係: 点が右下がりの傾向を示しており、多くのサイトで言及されるブランドほどAIモードでも上位に表示されることがわかります。

サイトあたり平均言及数との関係: こちらも右下がりの傾向があり、各サイト内での言及頻度が高いブランドほど上位表示されやすいことが確認できます。

記事内順位との関係:右上がりの傾向を示しており、記事内で上位に書かれているブランドがAIモードでも上位に表示される関係性が見えます。

各要因とAIモード順位の相関

  • 言及サイト比率:r=-0.76(強い負の相関)
  • サイトあたり平均言及数:r=-0.45(中程度の負の相関)
  • 記事内順位:r=0.59(やや強いの正の相関)

注目すべきは、記事内順位の影響が分析段階によって異なることです。分析結果①では「AIモードに選ばれるかどうか」に記事内順位は影響しませんでしたが、言及されたブランドにおいては、AIモード内での表示順位と記事内順位に明確な相関が見られました。

これは、記事内で上位に書かれていても「AIモードに選ばれる可能性」は高くならないが、選ばれた場合は「上位表示される可能性」が高まることを意味します。

機械学習による影響度分析

相関関係があることは確認できましたが、実際にAIモード順位を決定する際に、どの指標がどの程度影響しているのかを詳しく分析するため、機械学習による影響度分析を実施しました。特徴量重要度

Random Forestモデル(予測精度93.3%)による、AIモード内順位への各要因の寄与度:

  1. 言及サイト比率:59.2%(依然として最重要)
  2. サイトあたり平均言及数:31.9%(依然として重要)
  3. 記事内順位:8.9%(新たに影響)

分析結果①と同様に、言及サイト比率が依然として最重要で、サイトあたり平均言及数も次に重要な要因となっています。記事内順位の影響は小さいことがわかります。

結論:「質より量」の法則の実証

今回の調査により、以下の重要な発見が得られました。

「質より量」の明確な証明

最も重要な発見は、AIモードにおいて「拡散力が評価力を圧倒する」という事実です。統計分析により、少数のサイトで高順位を獲得するよりも、多数のサイトで普通に言及される方が、AIモードでの認知獲得には遥かに効果的であることが証明されました。

記事内順位の段階的な影響

記事内順位は、AIモードにおいて段階的に異なる影響を示すことが明らかになりました。言及可能性には影響しないものの、言及された場合の順位には統計的に有意な影響を与えます。ただし、その影響力は「広がり」や「深さ」と比較して限定的です。

示唆と考察

AI モードで選ばれるブランドになるためには、多くのサイトでブランドが言及されていなければならないというのは、非常にシンプルな内容です。ただ、多くのサイトで言及されるためには、従来のSEOの主眼であった自社サイトへの対策のみならず、第三者メディアを含めた検索結果におけるプレゼンスの最大化を目指す必要があります。

SEOでも「サイテーション」は、ドメイン評価を高める上で重要であると言われてきましたが、その優先度はこれまで以上に高くなっていくはずです。

どのようなページで、どのように言及されたいのか、といったブランドのプレゼンスの最大化やコントロールといった対策がより重要になっていくでしょう。

実践的なアクションプラン

フェーズ1:AIモード言及獲得(最優先)

1. 「広がり」重視:幅広いサイトでの言及獲得

  • 比較サイト・レビューサイトへの積極的な掲載申請
  • 業界メディアでの記事掲載・インタビュー獲得
  • プレスリリース配信の対象メディア拡大
  • ユーザー事例・導入事例の第三者サイトでの露出

2. 「深さ」向上:各サイト内での言及頻度向上

  • 詳細な情報提供によるサイト内言及回数増加
  • 特徴・機能・実績の具体的な情報発信

フェーズ2:AIモード内順位向上(次段階)

3. 記事内ポジショニング戦略

  • 比較記事での上位推奨を目指すための有益な情報提供
  • 製品の強みや良さをサイト上に明確に記載

KPI設計の刷新

AIモード時代には、自社サイトの取り組みだけでなく、PR活動や広告施策の効果も含めて、AIモードへの影響を総合的に測定できるKPIが重要です。

指標の転換

  • 従来のKPI:自社サイトの検索順位
  • 追加すべきKPI:ブランド言及サイト数・総言及数

本調査レポートの要点

  • 言及の鍵は「広がり」:言及サイト比率が最重要要因。効果量d=1.426の決定的影響
  • 「深さ」も重要:サイトあたり平均言及数も大きな効果。効果量d=0.826
  • 記事内順位は段階的影響:言及可能性には無関係だが、順位決定には相関r=0.59
  • 「質より量」の実証:多数のサイトでの普通の言及が、少数サイトでの高評価を上回る
  • 戦略転換の必要性:自社サイト順位重視から、検索結果全体でのブランドプレゼンス重視へ

AIモード時代において、マーケティング戦略の根本的な見直しが求められています。データに基づく「質より量」のアプローチにより、新しい検索環境での競争優位性を確立することが可能です。

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担当メンバー 津濱 ひかり

東京科学大学(旧:東京工業大学)の大学院時代にSEOに興味を持ち、株式会社LANYでインターンとしてデータ分析に従事。並行してデータサイエンスを学び、現在は事業会社でデータサイエンティストとして、営業業務の改善を目的とした社内ツールの企画・改善を担当。大規模言語モデル(LLM)を活用した機能開発にも取り組んでいる。

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監修者 竹内 渓太

株式会社リクルートホールディングスにデジタルマーケティング職で新卒入社。3年間デジタルマーケティングに従事。大規模サイトのSEOを中心に、デジタル広告運用やB2Bマーケティングなど多種多様な業務を経験。その後、株式会社LANYを創業し、Webメディア・サービスサイト・データベース型サイトなど幅広いモデルのSEO改善をプレイヤーとしてサポート。現在もプレイヤーとして多くの企業のSEOコンサルティングに取り組んでいる。

X・YouTubeチャンネルで「SEOおたく」としても情報発信中。著書『強いSEO』『強いBtoBマーケティング』『強いLLMO』(エムディエヌコーポレーション)出版。

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【サービス概要資料】LLMOコンサルティング

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