ヘッドレス化するポータルサイト | 検索が消えるLLMO時代、何を武器に生き残るべきか
ぐるなびが生成AIを搭載した新アプリ「UMAME!(うまみー)」を本格始動させました。
これは単なる新機能ではなく、私たちが20年間慣れ親しんだ「検索」という行為が、終わりを迎え始めた合図でもあります。
これまで私たちは、言語化できない欲望を無理やり「新宿 焼肉 個室」というキーワードに押し込め、検索ボタンを押してきました。 しかし、これからは「なんとなく温かいものが食べたい」「久しぶりに会う友人と、気兼ねなく話せる場所がいい」といった「ふわっとした文脈」を投げるだけでよくなります。
この「 検索しない」という流れは、飲食業界に留まりません。
旅行(Expedia)、不動産(LIFULL HOME'S)など、あらゆる領域で同時多発的に起きています。
ユーザーにとっては「探す手間」からの解放になるでしょう。しかし、ビジネス視点で見れば、これはポータルサイトにお客さんが来なくなるという恐怖のシナリオの始まりでもあります。
もし、ユーザーがAIエージェントとの対話だけで比較検討のすべてを完結させ、個別のWEBサイトを回遊しなくなったら、「ポータルサイト」のビジネスは一体どうなるのか?
本記事では、その論点について考えてみたいと思います。
ポータルサイトは「ヘッドレス化」するのではないか
この変化の行き着く先を考えたとき、ポータルサイトが「ヘッドレス化」するのではないかという考えが浮かびます。
EC業界には「ヘッドレスコマース」という概念があります。ユーザーが触れるフロントエンド(Head)と、決済や在庫管理を行うバックエンド(Body)を切り離すシステム構成のことです。これに近い現象が、メディアやポータルサイトでも起こるのではないかと考えます。
情報収集の入口(Head)がポータルサイトから分離していく
求人業界における「Indeed」の構造をイメージすると分かりやすいでしょう。
Indeedは、ネット上のあらゆる求人サイトや企業の採用ページから情報をクローリング、あるいはフィード連携で集約し、求職者にとっての巨大な「入口(Head)」となりました。
これと同じ構造が、AI時代にはより高度な形で展開されるはずです。
つまり、ポータルサイトの場合は「情報収集・比較検討=入口(Head)」「店舗データベース・レビュー・来店予約=Body」に分解され、未来のユーザーにとっての入口は、特定のポータルサイトではなく、ChatGPTやGeminiのような「対話型のAIエージェント」に置き換わっていくはずです。
ユーザーは、スマホに向かって「来週のデート、いい感じのイタリアンを19:30に2名で予約しておいて」と頼むだけ。
その裏側で、汎用AIが「ぐるなび」や「食べログ」といった店舗データベース(Body)にAPI経由で即時かつ横断的に問い合わせ、空席を確認し、予約を完了させる。
このプロセスにおいて、ユーザーがポータルサイトのトップページを開くことはありません。ロゴすら目にしないかもしれません。
入口は誰のものか──「Googleしごと検索」が示したUXと力関係
しかし、この未来へ一直線に進むかといえば、そう単純ではないはずです。
過去に「Googleしごと検索(Google for Jobs)」が直面した問題を思い出す必要があります。
Googleは求人情報の集約・統一表示を試みましたが、すべての求人メディアが諸手を挙げて参加したわけではありませんでした。自社サイトのユーザーを奪われることを危惧し、データ提供を拒むメディアとの間で利害調整が難航しました。
また、UI/UXの問題もあります。汎用的なインターフェースでは、業界特有の細やかなニーズを表現しきれない場合があります。たとえば、飲食であれば料理のシズル感ある写真、求人なら職場の雰囲気が伝わる動画の掲載などがそれに該当します。
つまり、情報収集の入口がAIエージェントになるか、ポータルサイトになるかは、そうしたUXの磨き込みと、企業間のパワーバランスによって決まっていくでしょう。
AI起点のバーティカル(特化型)な検索体験が、どこまで専門サイト以上のUXを磨き込めるか。ここが不十分であれば、ユーザーは再び「ぐるなび」や「食べログ」のアプリに戻ってくるはずです。
また、すべての主導権が生成AIに渡るわけではありません。「今、空いているか(リアルタイム在庫)」というリアルタイム情報の壁もあります。
AIは過去のデータから「美味しい店」を学習することはできますが、「今夜19時に席が空いているか」は分かりません。この「動的な在庫データ」を握っていることこそが、専門ポータルサイトがAIエージェントに対して持ちうる最大の防御壁であり、交渉材料になります。
ポータルサイトがヘッドレス化した世界で考えられる2つのビジネスモデル
もし「ヘッドレス化」が進み、ユーザーの情報収集AIチャット内で完結するようになれば、ポータルサイトへ直接アクセスするユーザーは減少するでしょう。
「人が来ないサイト」はいかにして収益を立てるのか。大きく2つの方向性が考えられます。
①AIプラットフォーマーから情報提供料をもらう
1つ目は、AIプラットフォーマーに対する「データの販売」です。 生成AIは正確な事実データを喉から手が出るほど欲しています。たとえば、Perplexityは「Publisher Program」を通じて、引用元のメディアに対価を支払っています。
これと同様に、ポータルサイトが持つ「正確な営業時間」「最新のメニュー」「信頼できるレビュー」を、AIが学習・参照するためのソースデータとして提供するモデルです。
AIにとっての「教科書」や「辞書」としての役割を果たし、そのライセンス料をプラットフォーマーから受け取ります。
ただ、現実的には現状の広告主からお金をもらって、広告主に「送客」をするビジネスモデルがあります。仮にAIプラットフォーマーへのデータ販売モデルが本格化すれば、ポータルサイトは「広告主に送客する存在」から「AIを支えるインフラ」へと立場を変えることになります。
この場合、現行の収益構造と整合させるのは、容易ではないためこの方向には行きづらいかと思います。
②AIからの送客とアクションを「成約」に転換させる
2つ目は、AIからのアクションを受け止める「インフラ」としての収益です。 これは現在の求人業界における「Indeed(入口)」と「各求人サイト(受け皿)」の関係に近いです。
汎用AIがユーザーとの対話を担い、要望を整理したうえで次のアクションを決めます。その結果として、ユーザーを対象のポータルサイトへ送客する場合もあれば、API経由で「予約」や「応募」といった実行データだけをポータルサイト側に送信する場合もあります。
いずれのケースでも、サイトの閲覧数(PV)は重要ではありません。AIが連れてきたユーザーを、いかに確実に「予約完了」や「応募完了」まで結びつけるか。その「トランザクション(成約)」の機能を提供し、店舗から手数料を得るモデルが主流になるでしょう。
今、ポータルサイトが考えるべきこと
未来の主戦場が「②AIからの送客」になるとしても、明日からいきなり世界中の人がAIだけで予約を完結させるようになるわけではありません。
少なくとも当面は、人がポータルサイト上で自ら検索し、比較し、予約する体験も並行して存在し続けるでしょう。
こうした過渡期である現在、ポータルサイトは既存の価値を磨き込みながら、未来への布石を打つ「ハイブリッド戦略」が求められます。
「自社メディア」と「API供給」の両輪で備える
まず、自社メディアの魅力は維持し続けなければなりません。写真の美しさや、特集記事の面白さなど、人間が楽しめるコンテンツは依然として強力です。
しかし同時に、「自社メディアに来てもらう」思想だけでなく、「APIで外部(AI)に情報を出しに行く」思想も持ち合わせていく必要が出てきます。
具体的には、予約・在庫確認・決済といった機能を、自社サイトだけでなく、外部のAIエージェントがAPI経由で利用できるようにシステムを整備すること。これが「AIからの送客」を受け止めるための必須条件となります。
営業の役割を「枠売り」から「AIへの翻訳者」として捉える
AI時代にポータルサイトが生き残るための最大の武器は、最もアナログな「営業担当者の力」なのではないかと思います。人間クローラーと呼んでもいいかもしれません。
AIが提案の決め手にするのは、スペック(駅徒歩5分)ではなく、コンテキスト(文脈)です。
「静かで落ち着けるか」「店主は無口だが腕は確かか」「デート向きか、接待向きか」。
こうした「場の空気」や「店主の想い」といった定性的な価値は、AIがネットを巡回しても拾えません。匂いや温度は、デジタルデータにならないからです。
ここで、ポータルサイトの営業担当者の役割が変わります。 彼らは単なる枠売りではありません。店舗というアナログな存在を取材し、そこにある「文脈」を感じ取り、AIが理解できる言葉(テキストデータ)に変換してデータベースに格納する。 いわば、「リアルの価値を、AI言語に翻訳するプロフェッショナル」です。
この泥臭い人間による一次情報の取得と言語化こそが、AIにとっての最高の教師データとなり、「このサイトの情報なら、ユーザーの気分を外さない」という圧倒的な信頼を生むはずです。
まとめ
ぐるなびの「UMAME!」は、表向きは「自社でAIエージェントを持つ挑戦」に見えます。しかしその深層には、来るべき「検索なき世界」を見据え自社のデータをいかにAIに認識させるかという「データ構造化の実験」としての意味合いも強いはずです。
検索が少しずつ消えていく未来で、誰が情報の覇権を握るのか。 戦いの場所は、目に見える「画面のデザイン」から、目に見えない「データベースの構造」へと移っているとも言えるでしょう。
【無料お役立ち資料】 LLMO対策の教科書
ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)が普及し、情報の届け先は“検索エンジン”から“AI”へと広がっています。
こうした時代において重要なのが「AIに選ばれる」状態をつくる“LLMO(大規模言語モデル最適化)”の視点です。
本資料『LLMO対策の教科書』では、AIがブランドをどう選ぶのか、その仕組みや企業が取るべき対策、実践事例までを体系的に解説。
SEOの次に取り組むべき“次世代の最適化”を、一冊にまとめました。
AI時代における新しいSEOの入門書として、ぜひご活用ください。
デジタルマーケティングのお悩み、
まずはお気軽にご相談ください。
サービス詳細は資料でもご確認いただけます。