投資家はAIにどう尋ねるか?AI時代の情報収集の変化とIRの備え
「割安で成長性の高い銘柄を教えて」と、投資家は、銘柄選びをAIに相談し始めています。
従来、投資家は決算資料や有価証券報告書を自分で読み、銘柄を選んでいました。
現在は、AIが開示情報を読み取り、要約し、投資家に代わって候補を提示する場面が増えています。
結論、IR担当者が押さえるべきは、「投資家がAIをどう使うか」という行動変化です。投資家行動を理解すれば、どの場面で何を備えるべきかが見えてきます。
本記事は、上場企業のIR担当者、経営企画、広報担当者に向けた内容です。
- 「相談」から始まる情報収集の変化
- 5つの相談シーン・問いのレイヤー
- IR担当が備えるべきこと
投資家行動の変化をとらえる補助線として、AICASという考え方も紹介します。
投資家の情報取得は「自分で読む」時代から「AIに尋ねる」時代へ
投資家の情報取得は、大きく変わりつつあります。
従来、投資家は決算説明会資料やIRサイトを自分で読み、複数の資料を比較しながら判断していました。
今後は、AIが開示情報を読み取り、要約し、投資家の相談内容に応じて銘柄候補を比較・提示します。

投資家と企業の間に、「AIという読み手」が加わる構図です。
AIに拾われない情報は「存在しない」のと同じ
重要なのは、AIが新たな読み手になる点です。
AIに正しく拾われない情報は、投資家に届きません。資料に埋もれていたり、読み取りにくい形式だったりすると、投資家にとって存在しない情報と同じになります。
AIに正しく伝わる状態をつくる取り組みが、LLMOです。LLMOとは、大規模言語モデルに正確に理解・引用されるための最適化を指します。

だからこそ、IRにも「AIに正しく伝わるか」という論点が加わります。
考え方の基本は、下記の記事で解説しています。

投資家の行動は「相談」から始まる
投資家行動で変わりつつあるのは、情報収集の入口です。検索エンジンで調べる前に、AIへ相談する場面が増えています。
変化をとらえる補助線として、AICASという考え方があります。従来、消費者行動はAISAS(注目・興味・検索・行動・共有)で整理されてきました。
AICASは、AISASの「検索」を「AIへの相談」に置き換え、相談・興味・確認・投資・共有の流れで整理した考え方です。

ただし、AICASは投資家行動を厳密に定義するモデルではありません。「相談から始まる」という変化をつかむための、大まかな見取り図です。
IRの観点で特に重要なのは、次の2つのフェーズです。
- 「相談」のフェーズ
- 「確認」のフェーズ
①相談フェーズ
投資家がテーマを挙げてAIに相談した際、自社が候補として提示されるかどうかが重要です。
たとえば、「ESGに積極的な企業は?」「株主還元に積極的な企業は?」といった質問に対して候補に入れなければ、投資家の検討対象になる機会そのものを逃してしまいます。
②確認フェーズ
候補に挙がった後、投資家は企業名を指定して詳しい情報を確認します。
「A社の財務状況は?」「この決算をどう評価すべきか?」といった質問に対し、誤った情報や不利な文脈で語られると、最終的な投資判断で候補から外れる可能性があります。
つまり、重要なのは、相談フェーズで検討対象となり、確認フェーズで投資判断に必要な信頼を獲得することです。
投資家がAIに相談する5つのシーン
投資家がAIに相談する場面は、投資判断の流れに沿って整理できます。
新規投資における4つの段階に加え、IRならではの「継続保有判断」を含めた5つのシーンで考えると理解しやすくなります。
- テーマ決定
- 情報収集
- 詳細分析
- 意思決定
- 継続保有判断
①テーマ決定から④意思決定まで
第1は、テーマ決定です。「今後伸びる領域は?」といった大きな方向性を相談します。
第2は、情報収集です。テーマ内で候補銘柄を絞り込みます。
第3は、詳細分析です。個別銘柄の財務や強みを掘り下げます。
第4は、意思決定です。最終的に選ぶ銘柄を固めます。
⑤継続保有判断|IR固有の重要シーン
第5は、継続保有判断です。IR固有の、見落とせない場面です。
すでに株を保有している投資家が、「保有を続けるか、買い増すか」をAIに相談します。
IRの役割は、新規投資家を増やすことだけではありません。既存株主の離脱を防ぐことも重要です。そのため、継続保有判断の問いにも備える必要があります。
投資家の問いは3つのレイヤーに分かれる
投資家がAIに投げる問いは、抽象度に応じて3つのレイヤーに分けられます。
- L0|テーマ軸の問い
- L1|テーマ×文脈の問い
- L2|指名・比較の問い
レイヤーを整理すると、備える優先順位が見えます。
L0|テーマ軸の問い
最も抽象度が高い問いです。
「人材領域のおすすめ銘柄は?」のように、業種やテーマだけで候補を尋ねます。
候補に入るには、自社が特定テーマと結びついて語られている必要があります。
L1|テーマ×文脈の問い
テーマに条件をかけ合わせた問いです。
「高配当の人材関連銘柄は?」のように、配当や成長性などの条件が加わります。
自社の特徴が該当文脈と結びついて拾われるかが問われます。
L2|指名・比較の問い
最も具体的な問いです。
「A社とB社を比較して」「決算をどう読むべきか?」といった質問が該当します。
指名・比較の段階では、誤情報や不利な文脈で語られないことが重要です。
3レイヤーの問いを網羅した一覧づくりが、対策の出発点になります。
AIの回答は「三層」に届く
IRで意識したいのは、AIの回答が投資家だけに届くわけではない点です。
回答は、大きく3つの層に届きます。
- 個人投資家
- 機関投資家
- 仲介層
個人投資家は、テーマ軸での銘柄選びや事業理解にAIを使います。
機関投資家は、分析補助や調査業務の一部にAIを活用します。
仲介層には、アナリスト、ESG格付け担当者、メディアなどが含まれます。
特に注意すべきなのは、仲介層です。 仲介層がAIの回答をもとに作成したアナリストレポートや記事は、市場全体へと波及します。そのため、誤情報が含まれていると、AIの回答にとどまらず、影響が広く拡散する可能性があります。
IR担当は何を備えるか
ここまでの行動の変化を踏まえ、IR担当が備えるべきことを整理します。
- 現状を可視化する
- 「相談で漏れない」「確認で外れない」状態をつくる
まず、現状を可視化する
最初の一歩は、現状の可視化です。設計した投資家の問いを、実際にAIへ投げて確認します。
確認する項目は、自社が候補に入っているか、どんな文脈で語られているか、AIが何を参照しているかです。
推奨の有無だけでなく、誤情報や不利な文脈も確認します。現状観測が、守りの起点になります。
「相談で漏れない」と「確認で外れない」の両面で備える
備えは、2つのフェーズに分けて考えます。
- 「相談」のフェーズ
- 「確認」のフェーズ
相談で漏れないためには、自社がテーマや文脈と結びついて語られる状態をつくります。
確認で外れないためには、誤情報や古い数値を防ぎ、検証可能な事実を整えます。
扱う情報は、開示済みの事実に限ります。新しい情報を発信するのではなく、開示済みの事実をAIが正確に拾える形に整えることが基本です。
具体的な整え方は、下記記事で解説しています。

投資家のAI活用に関するよくある質問
Q. AICASとは何ですか?
AICASとは、AI時代の投資家行動を「相談・興味・確認・投資・共有」の5段階で整理したモデルです。
従来のAISASが検索を起点にするのに対し、AICASはAIへの相談を起点にする点が特徴です。日経クロストレンドで示された考え方です。
Q. なぜ「継続保有判断」がIRで重要なのですか?
既存株主の離脱を防ぐことも、IRの役割だからです。
すでに株を保有する投資家が、「保有を続けるか、売却するか、買い増すか」をAIに相談する場面が増えています。新規投資家の獲得だけでなく、継続保有判断の問いに備えることで、株主基盤の安定につながります。
Q. AI上で自社がどのように語られているかは、どうすれば確認できますか?
実際にAIへ問いを投げて確認します。
テーマ軸から指名・比較まで、投資家が投げそうな問いを設計し、自社がどう語られているかを観測します。定点観測が、現状把握の基本です。
Q. AIの回答に誤りがあった場合、何が問題ですか?
誤った業績数値などは、株価形成や投資家の判断に影響します。
さらに、AIの回答はアナリストやメディアにも届き、レポートや記事として市場に還流します。誤情報を放置すると、影響が広がります。
まとめ
投資家の情報取得は、自分で読む時代からAIに尋ねる時代へ移りつつあります。情報収集が「相談」から始まる流れは、AICASという補助線で捉えられます。
重要なのは、「相談」で候補に入り、「確認」で外れないことです。投資家の問いは、テーマ軸から指名・比較まで3レイヤーに分かれます。
IR担当者がまず備えるべきは、現状の可視化です。投資家が投げそうな問いをAIに投げ、自社がどう語られているかを把握することから始めてみてください。
※本記事の制作には生成AIを活用していますが、編集者によってファクトチェックや編集をしています。また、掲載している画像はすべてデザイナーが制作したものです。
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